相互支援型の組織づくりにとても有効な一つのシステムを紹介したい。
それは企業内の誰もが自由に読み書きできるネットワークを通して相互にメンターとして参加するシステムである。これをメンターネットと呼ぶ。メンターネットは企業内のすべての物質的精神的資源を最大限に活用して、最大の成果を得るためのシステムである。
まず以下にメンターネットを使った二つの事例を紹介しよう。
● 事例1
新規事業を担当するA氏は毎朝メンターネットに接続することを楽しみにしている。な
ぜなら、そこにはA氏のために他の社員がみんなでさまざまな提案をしてきてくれるからである。
「こんなアイデアを思いついたのですが、良かったら使ってください」(総務部 田中
有紀)
「先日お会いしたお客様に新規事業のことを伝えましたところ、とても強い関心を示し
てくださいました。近いうちに紹介したいのですがいつがよろしいでしょうか」(営業部 木村卓二)
「資金が足りないときはいつでも声をかけてくれ。遠慮はいらない。何とか調達できるように努力するよ」(経営企画部 田所剛)
「まだ何もお手伝いできていませんが、がんばってください」(アルバイト 中村友之)
このようなメッセージを見ると、一人で新規事業を担当しているような気持ちにはならない。それどころか、まるで全社員を代表して企業の未来を担っているような使命感すら感じる。A氏はどんなに疲れていたとしても、毎朝やる気になって仕事に取り組むことができる。
● 事例2
Bさんは最近、人間関係がうまくいかなくて悩んでいる。それに仕事上でもトラブルが
続いてとても落ち込んでいた。何となくそんなことを匿名でメンターネットに入れたところ、翌朝見てみると、なんと二五件ものメッセージが届いていた。
「世の中うまくいかないことばかりだよね。でも、だからこそ感動もあるんじゃないかな。だって、すべてが思いどおりになったらつまらないじゃないか。だからこそうまくいかないことを楽しもうよ」(経理部 鈴木俊之)
「こんな本音メッセージが書けるなんて、とても勇気がある人だと思います。相談にのってもらうことって恥ずかしいことじゃないですよね。私も人には言えないことがたくさんあって苦しんでいましたが、これからは勇気を持って打ち明けて解決していきたいと思います」(開発部 宮城政夫)
「そういうときは夢を確認するようにしてみたらどうでしょうか。夢を忘れると目の前の物事に気持ちが左右されてしまうものです。私も疲れたなと思ったら、夢を確認するようにしています」(営業企画部 今村佳子)
「自分に負けないで!」(社長室 牧村さつき)
「私も最近何もかもうまくいかなくて悩んでいました。でも悩んでいるのは私一人じゃないってことがわかりましたし、私以上につらい思いをしている人がいるんだなと思ったら、がんばらなくちゃという気持ちが出てきました。悩みがあることを打ち明けてくださって本当にありがとうございました」(S・T)
Bさんはみんなの励ましメッセージを読みながら、自然と出てくる涙を止めることが
できなかった。そして昨日よりも少しだけ元気になった。
以上のように、メンターネットは相互に貢献し合うことによって、企業内の生産性を
最大限に高めようとするものである。もちろん企業の生産性とは、そこで働く一人ひとりの活力にほかならない。その一人ひとりの活力を最大限に発揮するシステムが、メンターネットなのである。
メンターネットの特徴は二つある。一つは企業内の経営資源を最大限に活用することができるようになること。企業内の重要な経営資源のほとんどは個人に帰属している。もちろんデータなどで共有しているものもあるが、ここで言う経営資源とはアイデアとか、経験などといったものも含んでいる。それらがすべて相互に活用される機会は、これまではなかったのではないだろうか。
そしてもう一つは、一人ひとりがやる気になることである。企業の生産性を最大限に高めるためには、一人ひとりがやる気になって物事に取り組んでいくことは必要不可欠な前提条件である。
このような相互支援環境が整うと、その集団のエネルギーはどんどん増幅されていくにちがいない。 |