一人の人間のカは小さいものである。しかし一人の人間ができることは無限大である。ではなぜたった一人の人間が歴史を変えるようなことまでできるのであろうか。
それはその一人の人間がどのような能力があるかではなく、どのような「思い」を持つかによってできることの内容、大きさが変わってくるからである。この「思い」が実現するまでには五つのステップがある。
第一ステップ 〈醸成〉
まず自ら「思い」を強めていく努力をしなければならない。
私たちは何かをしようと思ったとき、すでに何らかの「思い」を持ったことになる。そのほとんどは始めはわずかな「思い」かもしれない。それらは放っておけば消えてなくなってしまうような「思い」だろう。だからこそ「思い」は意識的に強くしていかなけれぱならない。一日に何度もその思いを確認したり、人にその思いを話したり、忘れないようにその思いを紙に書いてよく目にするところに張り出したりすることによって「思い」を強めていくのだ。この時点においては「思い」の実現のために必要な資源があるかないかは関係ない。それらは後から集まるものだからだ。
第ニステップ 〈発揮〉
「思い」の強さに応じて知恵を出し、行動する。
私たちは本気になるほど頭を使い、そして行動するようになる。弱い「思い」では安楽の欲求に負けてしまうために行動することはできない。しかし強い「思い」を持つほど行動のプライオリティ(優先順位)が変わり、積極的な行動をするようになる。さらに、強い「思い」は見るもの聞くものをその「思い」の実現のために活かそうとする。
第三ステップ 〈伝播〉
「思い」を持って行動するようになるとその「思い」が他人にも伝播する。
つまり他人が自分と同じ「思い」を持つのである。それによって自分一人だけの行動ではできないことが可能になっていく。こうして多くの人が同じ行動をすることによって無限の可能性が出てくる。
「思い」を持って行動しているのに他人が行動してくれないというのは、自分の「思い」が弱いことが原因である。そもそも強い「思い」を持っていないから他人に期待してしまうのだ。自分の「思い」の強さに応じて他人が能力を発揮するのである。
第四ステップ 〈吸引〉
他人も行動した結果、「思い」の実現のために必要な情報、人脈、資金、アイデアなどの資源が集まるようになる。
共感した人々が「思い」の達成のために行動するからである。必要資源が集まるスビードは加速していき、「思い」が実現する可能性は急速に高まる。
企業とは一つの「思い」に共感した人々の集団でなければならない。
第五ステップ 〈実現〉
こうして最後に、「思い」は実現する。強い「思い」のあるところに必要な資源が集まり続け、いつの日か「思い」は実現することになる。そして「思い」が強いほどそれは早くなる。
そして、最も強い「思い」を決意という。決意には次のような10の特徴がある。
(1)決意とは、夢・目標を実現するまでやるとあらかじめ決めることである
(2)決意は、どのような立場・環境からでもできる
(3)決意は、毎日確認するものである
(4)決意は、すべてを受け入れることから始まる
(5)決意は、問題を欲し、中傷をアドバイスに変える
(6)決意は、習慣を嫌い、常識を超える
(7)決意は、迷いと不満を消し去る
(8)決意は、強い自発性をもたらす
(9)決意は、他人を同じ行動に駆り立てる
(10)決意をした人は、行動に無理がなくなり、自然体である
私はこれまでに運よく、決意した人々にお会いする機会がたぴたびあった。学生時代から政財界に人脈を作り、二四歳で社団法人を設立した女性、官庁で次々と企画を立案・実行していく三○代の官僚、何万人もいる大企業の中で何の迷いもなく、変革を押し進める五○代の管理職、そして一七歳で、障害を持ちながらも全国にビジネスを展開する若者など。
彼らの顔の表情には、影や曇りがまったくない。自分の行動が当たり前のようで何の気負いも感じられない。皆自分らしく、自然体である。
現在の自分は過去の自分の「思い」の結果である。そしてまた末来の自分はいまどのような「思い」を持っているかによって決まる。すべては自分次第なのだ。
企業の中で最も大切なのが「人」であると言われる。しかしその人に「思い」がなければ、「人」がいることにはならない。何万人の社員がいようが企業にとって必要なのは、経済環境の変化に対して新たなる企業を創りあげていく「思い」を持った「人」である。 |