リスナーにおいて最も大切なことは技術を身に付けることよりも、相手を信頼する姿勢を持つことである。そのうえで初めて技術が生きる。
テクニックだけで人を導くことはできない。それは効果を高めることができるだけである。信頼関係がない関係の中では、いかなるテクニックもまったく効果を発揮することはできない。
リスナーであるためには単に話を聞くといった行為以上に幾つかの重要なポイントがある。以下、リスナーの実践ノウハウについて 解説してみたい。
1.相手を信頼すること
それは相手のすべてを受け入れることである。相手がどのような人間であるかは問題ではない。ミスのない完璧な人間などはいない し、自分の思いどおりになる人間もいない。相手が信頼できるかどうかが問題ではなく、まずは自分自身が相手を信頼するかどうかが 問題である。
自分が相手から信頼されなければ、相手は本音を話すことはない。相手を信頼することはリスナーであるための前提条件である。
2.相手と同じ立場で話を聞くこと
自分と相手が意識的な対等関係になければ、相手は素直に何でも話すことはしない。立場はどうあれ、本来人間と人間の関係で考えれば常に対等関係であるはずだ。このことを忘れると、たとえ親子の関係であったとしても、子供は親の言うことを聞かなくなるものである。
ものごとがわかっているからリスナーなのではなく、自分も一緒になって同じ立場で考えようとするからリスナーなのである。
3.真剣に相手と向き合うこと
相手の話を集中して聞くこと。相手が話をしたくなるためには自分がどれだけ相手と真剣に向き合うかが大切なことである。こちら に聞く気がないと相手が感じれば話す意欲を失ってしまう。真剣に話を聞く耳を持つことがこちらに対する安心感・信頼感となり、思 っていることすべてを伝えようという気持ちになる。
自分がどれだけ真剣に話を聞くかどうかということと、相手がどれだけ真剣に話すかどうかは比例する。
4.疑問符を投げがけること
疑問符を投げかけて相手の話を促す。相手が自分自身の思い込みに気づくには、無意識に当たり前と思い込んでいることをあえて考 察し直す機会を与えることが必要である。聞かれたことに応えるために、相手はこの再考察をしなければならなくなる。
「なぜ」「どうして」「具体的に」と聞いていく。それによって話の中で矛盾があれば自分で気づくことができるようになる。
問題は整理させるほど解決策が見つかるもの。相手の話を聞くことによって相手の頭の中を整理させることができれば、おのずと解 決策は見えてくる。
5.最終的意思決定は相手に任せること
判断を押しつけてはならない。判断は相手にさせることである。それが正しい判断とはほど遠いものと感じたことであっても、最終 的には相手の意思を尊重して委ねることである。
相手がイヤイヤやるのは自分で決めたことではないからである。やりたくてやるようにするためには、最終的に相手に決めさせるこ とが不可欠である。
6.待つこと
これが最も難しい。私たちはどうしてもすぐに成果の出ることぱかりを優先したくなる。そしてそのために相手に行動を強制する。しかしそれは必ずしも良い成果になるばかりとはいえず、相手のためになるとは限らない。社員に対して何事も強制ばかりする企業は急成長するが故に崩壊する。
短期的成果よりも人間的成長を優先しなければ人も企業も長期的成長はありえない。企業の成長と人材の成長は相関関係にあり、人 材の成長なくして企業の永続的成長はないからである。
相手の人生の中で成長を考えて待つことである。
いつでも自分の話を聞いてくれるリスナーがいることで、私たちは常に自信を持って行動することができるようになる。すべては自 分で判断して自分で行動すべきことがわかっていたとしても、ときとして私たちは不安や迷いの中で行動が消極的になることがある。 そんな時ほどリスナーがいる人といない人とでは行動に大きな差が出ることは否めない。
優れた上司・リーダーになるためには、部下にとって良きリスナーであることが極めて重要な要件である。いやそれ以上に悩める上 司に対し、部下として良きリスナーになることが求められている時代でもある。 |