最近は毎年春になると、大手企業の新入社員向けの講演を依頼される。ちょっと厳しい内容の講演をしているのだが、なぜかその内容がとても評判がいいので驚いている。その出だしの内容をちょっと紹介したい。
「皆さん、入社おめでとうございます。しかし私は皆さんのことを考えるととても胸が痛みます。なぜなら、皆さんは今とてつもなく大きなハンディキャップを負わされてしまったからです。こんな一流企業に入社してしまったことは皆さんにとって、とても厳しい環境になったに違いありません。今まで以上に努力をする覚悟がなければ、皆さんの将来はないでしょう。
私は今、就職に失敗した若者たちともよく接する機会があります。彼らはみんな真剣に自分の人生を考え、将来に向けて努力をしています。彼らの緊張感は私にも手に取るようにわかります。手に職をつけるために専門学校で今度は本気で勉強しようという人がいたり、将来自分で会社を設立するためにあえて小さなベンチャー企業でアルバイトとして働き始めた人もいたりします。就職に失敗した彼らは、ずーっと緊張感を持って毎日を生きていくにちがいありません。そして必ずや彼らは、好きなことを見つけ出し、そこで自分の可能性を発揮することでしょう。
しかし皆さんは違います。もうどこかに彼らとは違った安心感を持っているはずです。安心感はとても心地よいものです。しかし、今の安心感は将来の失敗の種でしかありません。常に自分自身を向上させていかなければ、世の中で必要のない人になってしまうでしょう。本当にどんなに苦労をしても成し遂げてみたいという目標を持たなければ、皆さんは一日を一年を何となく過ごしてしまうかもしれないのです。
企業は日々変化する環境の中で、社会的な価値を生み出し続けなければ存在し得ないものです。そのためには常に現状を打破し、創造していくことが不可欠です。それは緊張感のない人たちにはできません。皆さんの行動が企業の将来を決め、その結果が皆さんに降りかかってくるだけのことなのですから」
一流大学を出て一流企業に就職することは、人生に失敗することと同じかもしれない。就職は人生の終着駅ではない。それどころかむしろ始まりである。学生時代という準備期間が終わり、やっと社会で活躍するスタートの時が就職である。そこで安心するというのは、本末転倒な話なのではあるまいか。一流企業であったとしても二○年後、三○年後の将来はわからない。そして企業の将来をつくっていくのがそこで働く人々にほかならないのだ。
企業はそこに集まる人々の意識の集合体である。一人ひとりの意識に緊張感が失せたとき、企業の内部から崩壊が始まっているといえるだろう。企業の将来もまた、今そこに集まっている人々の意識がつくっているのであるから…。
現在は過去の結果であり、末来は現在の結果である。 |