まず、以下に、本考察から生まれてくる幾つかの結論を挙げてみたい。これらの幾つかは、今までの企業の考え方からすれば非常に違和感のあるものかもしれない。
(1) 売上げを目的にするほど企業の社会的存在価値は失われていく
(2) いくら社員教育をしても仕事の生産性は上がらない
(3) 出世を目的にした個人の生産性は落ちていく
(4) 目標管理をするほど目標が達成できなくなる
(5) いかなる制度、組織も社員をやる気にさせることはできない
(6) 社員の幸せを考えると会社は崩壊する
(7) 他社との競争が企業を存亡の危機に立たせる
(8) 安定は崩壊の始まりである
(9) 信用を大切にしようとするほど信用を失う
(10) 過去の成功が将来の失敗を招く
とても考えられないことばかりのような気もするかもしれないが、現実にこのようなことがあらゆる企業で起きている。
なぜこのようなことが起きてしまうのだろうか。
その理由について私は、企業のあり方とそこに関わる人の意識に根本的な原因があると考えている。
以下に、これらの結論が導かれた理由について、本連載の基本的な考え方を踏まえ、簡単にまとめてみたい。
(1)企業の目的は社会に貢献すること、そして企業の成長が社会に貢献するものでなければならない。そのために企業は業務をひたすら改善、向上していく必要がある。売上を目的にすると、企業はいかに楽して売り上げるかという方向性を持つことになり、その結果、そこで働く個人の意識は、売上が上がれば安心し、同じレベルの仕事を繰り返して、グローバルスタンダードから見れば全く通用しない企業になってしまうことがある。
(2)すべての教育は自発性を前提に行われるべきもの。自ら学ぶ意志のない人は、どれほどたくさんのことが学べる環境にいたとしても何も学ぶことができない。
また、どれだけ多くの知識や経験があったとしても、それを活かしていこうとする意欲がなければ生産性を上げることはできない。
(3)自らの社会的生産性を高めることが個人の目的であり、出世はその結果にすぎない。一見出世は人の意欲を高めるようであっても、現実にはリスクのあることに消極的となったり、問題に対しても自己責任の姿勢を失ってしまう。改善向上することよりも失敗しないこと、出世に関係あることだけが関心事となり、その結果企業全体の活力もなくなってしまう。さらに出世の目的化は、まじめに真剣に仕事に取り組む人よりも、自分の出世のためなら手段を選ばずに奔走する人をつくり出し、現実にはそのような人ほど出世をして、企業の本当の活力は失われていく。
(4)目標は自らの意思で選択し、やると決意して臨むものである。管理は強制につながり、管理されるほど人と企業の信頼関係は崩れていく。管理されるほど、人はイヤイヤ仕事に取り組むようになってしまい、その結果、目標は達成されなくなる。やる気のない人に目標は達成できない。個人の自発性をいかに育むかが目標達成に最も必要なことである。
(5)制度やシステムはそれを最大限に活かそうという意志を持った人がいることによって成果につながるものである。そもそもやる気のない人にどのような制度、システムを提供したとしても活用されることはないだろう。そして社員のやる気は上司、トップが見本となって示すことによってしか高めることはできないものである。
(6)社員の幸せとは、社員にとって安楽な環境をつくることではなく、ともにビジョンに向けて努力し充実感を得ることである。企業はその目指すビジョンに向けて共感した人々によって構成されるべきであり、その企業に所属する目的が自分の安楽のためだとすれば企業そのものが崩壊してしまうだろう。
(7)企業の目的は他社に勝つことではない。より社会に貢献するために自己変革することである。他社に勝つこと、マーケットシェアを拡大することは結果であり、どれだけ社会に価値・感動を与えられるかが企業の目的なのである。他社ではなく顧客に目を向けなければ、さらなる価値・感動を提供しうる新たなベンチャー企業群にマーケットを蹂躪されてしまうだろう。
(8)企業は安定を目指すものではなく、より高い社会的価値の創造を目指し、チャレンジし続けるものである。安定はその結果にすぎない。たとえ安定を得たとしても、その意識が企業の改善向上を消極的にするため、絶え間なく変化する社会の中では将来的に企業そのものが崩壊してしまうだろう。
(9)多くの企業が信頼を大切にするあまり、その実態よりも企業イメージを優先している。しかしながら、いくらイメージを大切にしてもそこから信用は生まれることはない。商業広告よりも、その実態によって顧客・社会は信用するかどうかを決めているのである。信用は真実からしか生まれない。
(10)絶対的な事業の成功法則はない。いかなるマーケティング、ストラテジーも万能ではない。過去と同じことをやって成長し続ける企業は存在しない。
過去にうまくいった体験が、そのうまく行った方法を将来も繰り返して経済環境の変化に対応できなくなることがある。
企業が成長し続けられるかどうかは、その目的とすること、そしてそこに関わる人々の意識によって決まる。売上が上がらなければ目標管理を厳しくすればよい、社員が働かなければ新しい制度を取り入れればよい、といった単純なものではない。企業の業績はそこに働く人々の活動の結果であり、その活動が自発的な意識に基づいたものでない限り、業績が向上し続けることはないだろう。
企業がどのような存在であるかは、そこにどのような意識を持った人々がいるかに尽きると言っても過言ではない。 |